AI英会話アプリ「スピークバディ」は、2023年5月、250万ユーザーを突破し、リリースからまもなく7年となる今も根強く英会話学習者の皆さんの支持を集めています。今回は私たちがこのサービスを開発する上で強く意図している「学習効果を高めるための仕組み」について、ゲーム学習論/オンライン教育研究をしている東京大学・藤本徹准教授に理論面から解説いただきながら、紐解いていきたいと思います。全2回でお届けします。
(本記事は2022年11月にnoteにて公開したものを一部修正の上公開しています)
「スピークバディ」ではAIキャラクターたちとの会話を通じて英会話練習を重ねますが、その体験について、ユーザーからこんなお声をいただくことがあります。
SNSやアプリストアでのレビューでは多くの方が「本当に話しているみたいな感覚を味わえる」と言い、AIキャラクターの動向や性格に言及しています。まるで実在の友達について気にしているかのようです。
このような「現実に話しているような感覚」「AIキャラクターへの感情移入」は、学習の楽しみを増すだけでなく、実際の学習効果にも繋がっているのでしょうか。この点について、東大・藤本先生にお話を伺いました。
東京大学大学院情報学環 准教授 藤本 徹
専門はゲーム学習論、教育工学。慶應義塾大学環境情報学部卒。ペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、「ゲームと教育・学習」(共編著、ミネルヴァ書房)訳書に「テレビゲーム教育論」、「デジタルゲーム学習」(東京電機大学出版局)、「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。
https://ludixlab.net/
スピークバディPR(以降SB):藤本先生、この度はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、AIキャラクターと織りなす世界での「臨場感」はどのように学習効果につながるのでしょうか。
藤本先生(以降、先生):これは「IDの第一原理(M.デイビッド・メリル)」に沿って解説しましょう。この原理は効果的な学習のための要素を過去の研究などから抽出したもので、5つあるとされています。
先生(続き):出発点に「現実に起こりそうな問題に挑戦」とありますが、スピークバディのコンテンツは、ユーザーの身に「現実に起こりそうな問題」を提示しています。ビジネスシーンであれば例えば「契約を取るという課題」。スピークバディではこれを実に細やかに描写していますよね。これが、臨場感を感じるような、「ほどよい現実感」につながっているのではないでしょうか。
SB:確かに、一つのテーマを幾つのもシーンに分解してレッスンに落とし込んでいます。例えばビジネスコンテンツ(新ビジネス)の「顧客の信頼」という章では単にプレゼンや議論のためのフレーズ・会話例にはとどまりません。
・職場での休憩・そこで同僚との雑談
・プレゼンに向けた資料チェック
・プレゼン後に自分の意見をどう述べるか
・意見に説得力を持たせるために、どう経験の豊かさをアピールするか
・プレゼン後どんな連絡をして顧客をフォローするか
などなど。これでも一部ですが、細かくレッスンを分けて単語やフレーズを学びながら話を進めていきます。一つ一つのシーンが、多くの方にとって身に覚えのある「現実で起こりそうな/起こった」ことなので「あるある」と共感して、まるでその場に自分がいるかのような臨場感を得られている。こういった課題設定が学習効果をあげる条件の一つだったんですね。
先生:さらに、それぞれのレッスンは全て
・単語学習:そのシーンで使う単語を知る
・リスニング:自分を含む登場人物のやりとりを聞く
・会話:自分が発話する
・英作文:キーとなるフレーズを使い、自分で英文を組み立てて発話する
・応用練習:キーとなるフレーズを、別のシーンで応用する
の5つに落とし込まれて構成されています。これも、IDの第一原理で言うところの「2.すでに知っている知識を動員」「3.例示がある」「4.応用するチャンスがある」を具現化していて、とても理にかなった構成だと言えます。
SB:もしかしたら最初は繰り返しが多いと感じるユーザーもいらっしゃるかもしれませんが、理論上も学習効果があるといえるのですね。確かに一つのレッスンの中だけでも、フレーズ・単語を反復して口にすることになるので、使っていると段々と定着していることに気づきます。
またストーリーが続いていることで、自然に以前に学んだ単語やフレーズが出てくるようにしています。これについても
といった声があがってきます。先生、そういうものなのでしょうか?
先生: "Learning by Whole アプローチ"という、学習経験を断片化させず全体として経験することで学習意欲促進と学習効果の向上を図ることができる、という理論があります(Perkins, 2009)。スピークバディは、全体を通じたストーリー設計がありその中で学習を進めていくように作られていますよね。この理論にかなったアプローチと言えると思います。
SB:キャラクターへの感情移入についてはいかがでしょうか。楽しいという以上に何か学習効果が見込めるでしょうか?
先生:こちらも言うなれば、メリルの「IDの第一原理」、1つめの「現実に起こりそうな問題」の質をあげることに一役買っていると言えるでしょう。例えば、
・資料作成が遅延しているところで、もし強面の上司に呼び止められたら?
・気さくな同僚に、忙しい時に頼み事をするなら何て言う?
・弱気になることもあるアシスタントを、どう励ます?
これらの問題は、単に「プレゼンをする」「レポートをまとめる」というよりさらに状況が具体的ですよね。
SB:そうですね。実はキャラクターにはそれぞれバックグラウンドが詳しく設定されています。出身地や役職といった基本情報だけでなく性格も設定しており、会話を通じてユーザーはそれも感じとるのでキャラクターへの感情移入や、本当の友達や同僚のように気持ちを抱くんですよね。
先生:IDの第一原理でいうところの「現実に起こりそうな問題」については、「内容」と「場面・環境」の部分があります。スピークバディは、場面や背景情報も含めて再現しているところが特徴的なところだと思います。
SB:「場面・環境」で言うと、スピークバディは細部に工夫をこらしていて、オフィスであれば周囲の話し声、カフェであれば店内に流れている音楽が聞こえてきますし、キャラクターごとの性格や彼らとの交流も「問題の質」に関わりますね。また最近のアップデートでは「リモートワーク」についての会話や「オンラインミーティング」のシーンを入れたり、社内のコミュニケーションは「チャット」を前提にしました。これによりさらに身近で具体的な場面になっていると思います。
一般的な英会話レッスンでの先生とのロールプレイではなかなか細かく再現しきれないものですが、AI相手であればできることなので、こだわって開発しています。
SB:今後に向けてより強化すると良いのでは?という点があればそれもお聞かせください。
先生:この理論に照らし合わせながら見ていくとよく出来た学習ツールになっていると思いますが、あえて強化ポイントを挙げるとすれば、IDの第一原理の「5.現場で応用し振り返るチャンスがある」という点でしょうか。
今スピークバディを活用した基本的な学習のスタイルは、「アプリで学び、練習を重ねる」→「それを現場(ビジネスの場など対人での会話)で使い、実践を積む」という流れではないかと思います。この「実践」の部分をもアプリの中でできるとさらに良い学習効果につながると思います。
SB:そうですね!現在までのところ、実践に近い機能は一部で、AIを相手にトークする「実践AI英会話」・「トピック別AI英会話」があります。こちらは直前のレッスンで学んだフレーズを活用したり、一定のテーマ内でAIと会話できるというものになっています。
今後、このAIとの会話機能を進化させ、より自由に会話できるようになると実践度合いがさらに高まりますね。
先生:今日は起動した直後の画面(「バディ」ページ*)で、キャラクターのプロティに「カレーを作ったよ」と言われましたが、そこから会話が発展して、こちらのメニューを伝えたり、カレーのレシピを聞いたりしても良いですよね。
SB:ありがとうございます。ここからも話を膨らませられるようになると、大きな進化ですね。今、トーク機能に関連して準備している新機能もありますので、今後、学習者の皆さんにより実践的な会話を楽しんでいただけるよう、引き続き開発・コンテンツ強化を進めていきます。
先生、今回はありがとうございました。次回もどうぞよろしくお願いいたします。(vol.2に続く)
Written by / スピークバディ PR
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